今日はその前提となる「自分自身」について扱ってみたいと思います。
営業アシスタントAさんのケースについて考えてみましょう。
Aさんは、仕事を一つひとつ正確に進めるタイプの女性です。
ある日、Aさんが職場の営業Xさんから一度に3つの依頼をされ、
同じ日に営業Yさんから一度に3つの依頼をされました。
営業Xさんは仕事をすばやく進める早口の男性、
営業Yさんは仕事を丁寧に進める温和なタイプの男性です。
このとき、依頼の内容、難易度はいずれも同程度だったとすると、
AさんはYさんからの依頼に対してより速くて正確に
応えられる可能性が高くなるでしょう。
理由としては、
・Yさんの話す速度がゆっくりのため、Aさんが聞き逃すリスクが低い
・Yさんは相手の反応を見ながら話すため、Aさんにとって依頼が受け取りやすい
などが考えられます。
それでは、このようなことが2度、3度と繰り返された場合、
どのようなことが起きるでしょうか。
まずは営業Xさんの視点に立って考えてみましょう。
Xさん:
(どうしてAさんは、私のお願いしたことにすぐに対応してくれないのだろう。
頼んだ内容と少し違ったものが出てくるから、修正が必要なことも多いし・・
Yさんの依頼にはしっかり応えてくれているようだから、もしかしたら私のこと
を良く思っていないのかもしれないな。)
一方Aさんの視点で考えてみると、
Aさん:
(Xさんは偉そうに私に頼みごとをする割に、私をあまり信用していない気がする。
そんなに私が信用できないなら、私に頼まず自分でやったらいいのに。)
これは多少極端な例ですが、一つのワークスタイルの違いが、時間の経過とともに
人間関係のズレや溝を生んでしまう可能性を示唆しています。
この場合において、Xさんが仕事上の成果を上げるためには、
どんなことに気を付ければよかったのでしょうか。
応えは簡単で、「自分が早口であるということを自覚する」ということです。
「Yさんの依頼にはしっかり応えてくれているようだ」というXさん自身の発言からも
わかるように、この場合Aさんの仕事能力を批判することや、改善を促すというのは
得策とは言えません。
実際には、(なんでメモを取らないのか?)とか、(もっと処理能力を上げてほしいな。)
(せめて後で確認を入れてくれないだろうか?)などと思ってしまいがちですが、
そうした周囲の人を批判する方法よりも効果が高いのは、
「自分のワークスタイルを把握し、必要に応じて周囲の環境に合わせる」ということです。
Xさんの「早口」というのも、ワークスタイルの一例です。
ワークスタイルは千差万別で、複数の人が集まればそれだけ交差点が増え、
皆が無自覚に仕事を進めていては、上述したケースのような交通事故が発生します。
そういった事故を極力減らすために、通常各職場では、服務規律が定められ、
日々のマネジメントの中で職場風土として定着させています。
しかし、企業の合併・統合が頻繁に発生するような昨今の経営環境下では、
このような職場風土を安定的に運用するのは困難になってきています。
そこで、組織で働くビジネスパーソン各自が「己を知り、調節をする」ことが
求められるようになっているのです。
再度、Xさんのケースに話を戻しますが、
大事なのは、Xさんが早口を「なおす」のではなく、「自覚する」という点です。
なぜなら、Xさんの早口はAさんとの関係において事故発生の原因になりましたが、
それ以外の場面(たとえば、さらに早口の役員Bさんとの打ち合わせなど)では
仕事上の強みとして発揮される可能性があるからです。
自分のワークスタイルを知ることは、自己変革をするような大それたことではなく、
柔軟に周囲との関係を築いていくための地図を手に入れるということなのです。
みなさんも、一度自分のワークスタイルを棚卸してみてはいかがでしょうか。