2012/03/21

自分のワークスタイルを知る

このコラムでは、「周囲の協力」をいかに得るかについて探求をしていますが、
今日はその前提となる「自分自身」について扱ってみたいと思います。


営業アシスタントAさんのケースについて考えてみましょう。

Aさんは、仕事を一つひとつ正確に進めるタイプの女性です。

ある日、Aさんが職場の営業Xさんから一度に3つの依頼をされ、
同じ日に営業Yさんから一度に3つの依頼をされました。


営業Xさんは仕事をすばやく進める早口の男性、
営業Yさんは仕事を丁寧に進める温和なタイプの男性です。


このとき、依頼の内容、難易度はいずれも同程度だったとすると、
AさんはYさんからの依頼に対してより速くて正確に
応えられる可能性が高くなるでしょう。


理由としては、
・Yさんの話す速度がゆっくりのため、Aさんが聞き逃すリスクが低い
・Yさんは相手の反応を見ながら話すため、Aさんにとって依頼が受け取りやすい
などが考えられます。


それでは、このようなことが2度、3度と繰り返された場合、
どのようなことが起きるでしょうか。


まずは営業Xさんの視点に立って考えてみましょう。
Xさん: 
(どうしてAさんは、私のお願いしたことにすぐに対応してくれないのだろう。
頼んだ内容と少し違ったものが出てくるから、修正が必要なことも多いし・・
Yさんの依頼にはしっかり応えてくれているようだから、もしかしたら私のこと
を良く思っていないのかもしれないな。)


一方Aさんの視点で考えてみると、
Aさん: 
(Xさんは偉そうに私に頼みごとをする割に、私をあまり信用していない気がする。
そんなに私が信用できないなら、私に頼まず自分でやったらいいのに。)


これは多少極端な例ですが、一つのワークスタイルの違いが、時間の経過とともに
人間関係のズレや溝を生んでしまう可能性を示唆しています。

この場合において、Xさんが仕事上の成果を上げるためには、
どんなことに気を付ければよかったのでしょうか。

応えは簡単で、「自分が早口であるということを自覚する」ということです。

「Yさんの依頼にはしっかり応えてくれているようだ」というXさん自身の発言からも
わかるように、この場合Aさんの仕事能力を批判することや、改善を促すというのは
得策とは言えません。

実際には、(なんでメモを取らないのか?)とか、(もっと処理能力を上げてほしいな。)
(せめて後で確認を入れてくれないだろうか?)などと思ってしまいがちですが、
そうした周囲の人を批判する方法よりも効果が高いのは、
「自分のワークスタイルを把握し、必要に応じて周囲の環境に合わせる」ということです。


Xさんの「早口」というのも、ワークスタイルの一例です。

ワークスタイルは千差万別で、複数の人が集まればそれだけ交差点が増え、
皆が無自覚に仕事を進めていては、上述したケースのような交通事故が発生します。

そういった事故を極力減らすために、通常各職場では、服務規律が定められ、
日々のマネジメントの中で職場風土として定着させています。

しかし、企業の合併・統合が頻繁に発生するような昨今の経営環境下では、
このような職場風土を安定的に運用するのは困難になってきています。

そこで、組織で働くビジネスパーソン各自が「己を知り、調節をする」ことが
求められるようになっているのです。


再度、Xさんのケースに話を戻しますが、
大事なのは、Xさんが早口を「なおす」のではなく、「自覚する」という点です。

なぜなら、Xさんの早口はAさんとの関係において事故発生の原因になりましたが、
それ以外の場面(たとえば、さらに早口の役員Bさんとの打ち合わせなど)では
仕事上の強みとして発揮される可能性があるからです。

自分のワークスタイルを知ることは、自己変革をするような大それたことではなく、
柔軟に周囲との関係を築いていくための地図を手に入れるということなのです。


みなさんも、一度自分のワークスタイルを棚卸してみてはいかがでしょうか。


2012/03/07

ボスマネジメントを予定する

職場の人間関係をマネジメントする上で前提となるのが、
マネジメントを実践する時間を確保することです。

日々目の前の業務に忙しくしていると、
わざわざ人間関係構築のために割く時間はない、
という気持ちになってくるかもしれません。

しかし、時間がなくて「ボスマネジメント」ができないとします。

そうすると、
上司との関係は良くならない、
上司から突然無理な依頼を受けて忙しくなる、
忙しいのでさらに時間がなくなる、
というような悪循環から抜け出すことはできないでしょう。


人間関係構築のために割く時間がないのであれば、
積極的に作っていくことをお勧めします。

そのためには、自らの仕事を戦略的に仕組化していく
必要があるでしょう。

限られた時間の中でどの業務にどのくらい時間をかけるか、
という予定を組むのです。
そしてその予定の中で人間関係構築のための時間を確保しておけば
よいわけです。

予定を組むためには、まず自分の業務全体の分類と、
それぞれの所要時間を見積ることができなくてはなりません。

入ってきた業務に五月雨式に対応していると、
予定を立てることはできません。
また所要時間を見積ることもできないので業務の締切を正確に設定できず、
常に時間がないという状態が生まれてしまうのです。

業務を分類し、業務に応じて日、週、月で予定を立てていくと、
業務それぞれの所要時間の見積りも精度を増していき、
さらに適格な予定が組めるようになっていきます。

そして、業務の1つとして人間関係構築の時間を組み込むわけですが、
その際には具体化された行動に落とし、
かつ所要時間の見積りをしていく必要があります。

業務にボスマネジメントの時間を組み込んでいく場合、
例えば下記のような予定を立てます。

月曜:上司関連時間(上司との打合せ)/1時間
   上司関連時間(上司からのリクエストを処理する時間)/2時間
金曜:上司関連時間(上司に翌週月曜の打合せで伝えることの整理)/30

月曜の打合せ後にほぼ毎回のペースで上司から何等かの依頼があり
それに対応する時間が求められるのであれば、それは予定として
組み込んでおきます。
そうすると、毎回突発的な業務が発生する、とはならず、
それを見越した業務の組み立てができるようになるわけです。

また、上司との打合せに戦略を立てて臨む体制を作るため
事前の検討時間を用意しておく等も、ボスマネジメントを予定に
組み込む一つの方法でしょう。


人間関係構築というと抽象的なものとして捉えられがちですが、
戦略性を持って実行し続けていこうとする場合には
行動内容の具体化と、時間を意図的に確保していく、
ということが重要です。



【参考文献】
※『ルーチン力』佐々木正悟著(翔泳社)

2012/02/22

上司に意見を伝える (2)

前回は、上司に意見を伝えるためには、「アサーティブ」になることが
重要であることをお伝えしました。

今回は、アサーティブな対応をするための4つのポイントを
具体例を交えながらご紹介していきます。

なお、事例はなるべく多くの方がイメージしやすいように、
相手を上司と特定せず、一般的な例を用いています。

みなさんの職場の状況に合わせて、適宜置き換えて読んでみてください。


【アサーティブ4つのポイント】

1.自分の気持ち、考えを正確にとらえる

2.周囲の状況や相手を観察する

3.要求や希望を明確に表現する

4.選択肢を用意する


1.自分の気持ち、考えを正確にとらえる

アサーティブな対応をするためには、自分がどんなことを考え、
どんな感情を抱き、相手に何を伝えたいのかを明確にしなくてはなりません。

当たり前にも思えますが、自分の言いたいことを明確にするというのは
なかなか難しいものです。

非主張的に相手に合わせることを続けていると、自分の考えより
周囲がどう反応するかに意識を取られやすくなります。

また攻撃的な気持ちで相手と関わっていると、いかに自分が優位に立つか
ということに意識を取られやすくなります。

そうしたことを続けるうちに自分の本当の気持ち、考えがわからなくなり、
相手にも伝えられない、という状況が起こってしまうのです。


2.周囲の状況や相手を観察する

アサーティブな言い方は、自分の伝えたいことを相手にきちんと
伝わるように表現します。

そのためには、状況を観察し、相手にもわかる事実を具体的にする
必要があります。

例えば、あなたが職場で大事な電話を掛けようとしている時に、
隣の席のAさんが大声で話しているのに対し

(Aさん、うるさいなあ。)

と思ったとします。

ここで、何をうるさいと感じたかを観察して具体化すると、

「Aさんがうるさい」のではなく
「大事な電話の横で発せられる大声」が自分にはうるさく聞こえる、

ということがわかります。

そして、非難したい気持ちを一旦脇に置いて考えてみると、

(Aさんは自分が今から大事な電話をするところだとは知らない)

(大声になっていることに気づいていないかもしれない)

(大声になっているのには何か事情があるのかもしれない)

などということも見えてきます。

こうした前提が、相手にわかりやすく伝える基盤となります。


3.要求や希望を明確に表現する

観察による共通基盤ができて、自分の気持ちや考えが確認できたら、
それを踏まえた相手への具体的な提案、要望をします。

前述した電話の例で考えると、

・自分が「うるさい」と感じたこと

・それは「大事な電話の横で発せられる大声」に対して感じたものであること

という前提が整理されています。

すると、
「これから大事な電話をするので、少し声を落としてもらえないでしょうか。」
という提案が出てくるかもしれません。

ただ「うるさいんですけど・・」と伝えたり、黙って睨みつけたりするよりも、
相手へ伝わりやすく、自分が欲していることの実現可能性も高まります。


4.選択肢を用意する

相手への提案や要望は1つしかないということはありません。

また、相手も少なくとも「イエス」「ノー」の2通りの返事を持っています。

そうであれば、自分の提案にもいくつかの選択肢を用意する必要があります。

「これから大事な電話をするので、少し声を落としてもらえないでしょうか。」
という提案に対し、
「いや、こちらも今、大事な議論をしているんだ。」
と言って、断られることもあるでしょう。

そこで、
自分が移動して別の場所で電話をする、という選択肢や
「短時間で済ませるようにしますので、その間だけお願いできませんか。」
という妥協案を提示することも考えられます。

このように、相手への反応に幅を持たせておくことで、アサーティブに振る舞う
心理的な余裕も生まれ、さらにアサーティブな関係を築きやすくなるのです。


以上4つのポイントを見てきましたが、アサーティブな対応とは、
自分の考えを率直に、その場にふさわしい方法で表現することであって、
たとえ意見が異なっていてもそこから妥協案を探っていく態度です。

人は自分の価値基準に沿って考えや感情を持ちます。

その価値基準は、経験や年齢や性別などによって様々であり、
上司との間で「考え方や感じ方が違う」ということが起きるのも
当然のことです。

そのような違いを認めた上で仕事上の成果を上げていくためには、
アサーティブな関わりというのは非常に重要ではないでしょうか。


【参考文献】
※『自己カウンセリングとアサーションのすすめ』平木典子著(金子書房)

2012/02/08

上司に意見を伝える (1)

あなたは上司に、自分の意見をどのように伝えているでしょうか。

上司の決断に対し、

「自分の意見を抑えて納得したふりをする」ことがあるでしょうか。

もしくは、

「自分の意見を押し通そうと説得する」ことがあるでしょうか。


上記のいずれにもあてはならない
心理学をベースにしたコミュニケーション方法として、
「アサーション」という考え方があります。


アサーションは「自己表現」とも訳されますが、
アサーションでは自己表現の仕方を大きく3つに分類しています。

1.ノンアサーティブ(非主張的)

2.アグレッシブ(攻撃的)

3.アサーティブ


1つ目の「ノンアサーティブ」は、
自分の考えや感情を抑え、無理に相手に合わせてしまう態度です。

相手に配慮しているようにも見えますが、自分を抑えた感情は残り、
イライラしたり落ち込んだり、結果として欲求不満をためてしまいます。


2つ目の「アグレッシブ」は、
相手の言い分や感情を無視し、自分の意見を押し通す態度です。

激しい言い方をする、相手を責める、無視する、あえて反対の行動を取る、
巧みに相手を操作し自分の思い通りにしようとするなど、
攻撃的なあまり、最終的に相手の反発を招いてしまいます。


そして3つ目の「アサーティブ」は、
1つ目と2つ目の中間にある、自分の気持ちや考えを相手に伝え、
相手のことも配慮するやり方です。

自分の気持ち、考えを“率直に”、“その場にふさわしい方法で”表現します。
たとえ意見が異なっていても、そこから妥協案を探っていく態度です。


自分と仕事のパートナーである上司の間で、「ノンアサーティブ」や
「アグレッシブ」な関わりがされると、どちらか一方、もしくは双方に
悪感情が生まれます。

それが続くと、仕事をスムーズに進めること、質の高い仕事をすること、
本来目指すべき成果を上げることを阻害するようになります。

そうしたことに左右されないためには、上司に対してアサーティブな
関わりをしていくことは重要と言えるでしょう。

たとえ上司が、アサーティブではない対応をしていたとしても、
上司との関係は相互に影響して生まれていますから、
まずは自分がアサーティブな対応をすることから始めてみるのです。


では、具体的にはどのようなことを意識すれば、より「アサーティブ」に
近づけるのでしょうか。
次回は、アサーティブな対応をするための4つのポイントを
具体例を交えながらご紹介していきます。



【参考文献】
※『自己カウンセリングとアサーションのすすめ』平木典子著(金子書房)

2012/01/25

相手の立場に立つ

仕事をする中で、社内外の関係者から協力を得るシーン
というのは多いと思います。

不足している知識や技術をサポートしてもらう、
違う立場の人の意見を聞いてより意味のある企画を作る、
社外の協賛を仰ぐ・・等々、

スムーズに仕事を進めていく上で
うまく周囲の協力を得ることができる、
というのは非常に重要と言えるでしょう。


周囲に協力を求める時に大事になるのは、
「相手の立場」に立つということです。


ごく当たり前のようにも聞こえますが、
日常的にそれを実行し続けるというのは
意識しないと中々難しいのではないでしょうか。


例えば、こんなケースがあります。


総務部に所属するAさん。

現在の課題を解決した新しい福利厚生の仕組を導入しようと
色々と検討をしています。

検討を進める中、現状把握が足りていないと感じたため、
社内数名にヒアリングを行おうと考えました。

そこで、こんなメールをヒアリングしたい対象者に送りました。


「Bさん

 お疲れさまです。
 
 今回Bさんに、福利厚生制度に関するヒアリングを
 したいと思ってメールしました。

 現在の制度について感じること、改善して欲しい点など、
 ざっくばらんな意見が聴きたいと思っていますので、
 ご協力どうぞよろしくお願いします。

 日時については、●日●時、●日●時のいずれか都合の
 いい時を返信ください。

 どうぞよろしくお願いします。」


このメールをもらって、BさんはAさんに
快く協力をしたいと思うでしょうか?


このメールで問題となるのは、
Bさんにとって”ヒアリングされるメリット”を考えるヒント
となる記述が不足しているということです。


Aさんがこのヒアリングが有意義だといかに思っていても、
Bさん自身が協力するメリットを感じられなければ
快く協力しようという気持ちにはなりにくいものです。


仮にメリットがなかったとしたら、Aさんはそれを
明示した上で、それでも自分のためにぜひ時間を
取ってもらえないか、とお願いする必要があるでしょう。


「現状の課題を改善した福利厚生の仕組を作るため、
 ぜひ現場の声を聴きたいと思っています。」

「ヒアリング内容がそのまま反映できるかはわかりませんが、
 一つの貴重な意見としてぜひいただけないでしょうか。」


そのようなことをメールに書き添えておけば、
Bさんも会社を良くするため、自分の職場環境を良くするために
協力しよう、という気持ちにもなるでしょう。



自分の仕事に集中すると相手の立場に立って考える、
ということが難しくなりがちですが、
仕事は基本的に個人と個人の関係で成り立っています。


日頃から、相手の立場に立って考えられているか、
ということを意識してみてはいかがでしょうか。



【参考文献】
※『ロジカル・シンキングの道具箱』山崎将志著(日本実業出版社)

2012/01/11

上司を知る

ボスマネジメントとは、上司との人間関係に着目した
“上司とのかかわりを能動的かつ戦略的に行う手法”のことです。

ボスマネジメントを実践する上で、相手である「上司を知る」ことは
その出発点とも言えます。

ここで言う「上司を知る」とは、効果的なボスマネジメントの実践に必要な
「上司情報」を把握するということです。

では、そのような「上司情報」にはどんなものがあるでしょうか。

1つ目が“上司を取り巻く構造”です。

どんな上司もなんらかの組織に所属し、位置づけと役割を持っています。
組織における上司の位置づけと役割は、上司だけを見ていてもわかりません。
上司を取り巻くステークホルダーとの関係を構造的に把握する必要があるのです。

ここでは、より分かりやすくするために、3つのベクトルに分けて考えてみます。

【1.↑上ベクトルの役割】
これは、上司の「上司」、お客様に対する役割です。
【2.→横ベクトルの役割】
これは、連携する他部署、業務上の取引先に対する役割です。
【3.↓下ベクトルの役割】
これは、部下に対する役割です。

このように、上司は組織内で3つのベクトルの役割を担っています。

この3つのベクトルについて万遍なく目を向け、
上司はどの程度役割を果たしているのか考えることが
“上司を取り巻く構造”を知ることに繋がります。

知るべき「上司情報」の2つ目が、
“上司の仕事環境”です。

上司が組織上持たされている中期目標や短期目標、
現実の仕事量やどんなことにプレッシャーを感じているのか、
などといった上司自身もコントロールすることの難しい外部環境のことです。

知るべき「上司情報」に3つ目が、“上司の特性”です。

ワークスタイル、ライフスタイルといった
長い年月をかけて形成された上司自身の習慣やくせのことで、
本人自身も自分がそのようなスタイルを持っていることを
認識していないケースがあります。

以上3つが効果的なボスマネジメントの実践に必要な「上司情報」ですが、
具体的には日常の中で、どのように上司を知ればよいのでしょうか。

たとえば、上司に関する質問リストを持つというやり方があります。

簡単にその方法を試してみましょう。
まず、あなたの上司になりきって、以下のような質問に答えてみてください。

□ 私の趣味、休日によくすることは?
□ 私の仕事における強み、得意としていることは?
□ 私がやりたくても中々手がつけられていない仕事は?

さて、3つのうちいずれも明確に答えられたでしょうか。

上司を知っているつもりになっているというケースは意外と多いものです。
あなた自身がそうであるように、上司も時間の経過とともに変化する存在です。

上記のような質問リストを自分で作成し、3か月に1回程度の頻度で
見直すということをしてみてはいかがでしょうか。

【参考文献】
※『パワーと影響力』 ジョン.P.コッター著 (ダイヤモンド社)